連続講座「2025年度・レジリエンス━破綻と回復の境界」第3回講義レポート
京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座では、昨年度に引き続き、レジリエンスについて考える連続講座を開催します。今年度も各講義100人を超える方々からのお申し込みをいただき、改めて非常に多くの方が関心を寄せているテーマであることを再確認いたしました。ご参加できない方やもう一度講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。
第三回は安倍晋三内閣で元内閣官房参与を務めた本田悦朗氏の講義でした。本田氏は、現在の日本が抱える外国人に関する多くの課題、外国人労働者問題、オーバーツーリズム、外国人による不動産取得に関する問題等を挙げ、なぜ今、このような問題が噴出してきているのかと問い、それはグローバリズムに対して国家が消極的にしか介入してこなかったからだと指摘します。グローバリズムの綻びが見え始めた今、高市政権は、日本の風土、伝統、歴史に関わるこれらの問題に真正面から対処しようとしていると本田氏は言いました。
【開催概要】
日時: 2025年11月15日(土)16:00-18:00
登壇者: 本田 悦朗(経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授)
場所:京都大学吉田キャンパス 総合研究2号館1階 講義室1
テーマ: レジリエントな財政・金融政策
アベノミクスの教訓と「デフレという病」
高市首相は「アベノミクス」の基本路線を継承する方針を掲げていますが、そもそも「アベノミクス」とは、どのようなものだったのでしょうか。安倍政権のアドバイザーとしてその政策に携わった本田氏は、まずこの「アベノミクス」について振り返りました。

「アベノミクス」とは、第2次安倍晋三内閣が推進した経済政策です。安倍政権はデフレ脱却を目指し、物価安定目標2%を掲げ、日本銀行と連携して大胆な金融緩和政策を打ち出しました。それは、デフレの長期化が引き起こした人々のデフレマインド(将来への不安から消費や投資を控える心理状態)によって、需要が減り、物価が低迷していた日本の経済活動を活性化させるために打ち出した政策でした。
これにより物価は上がりはじめ、日本経済は回復の軌道に乗ったかのように見えました。しかし、2014年、2019年と2回の消費税増税が行われたため、安倍政権は完全なデフレ脱却を果たすことが出来ませんでした。この「増税による(経済回復の)失速」という苦い教訓が、現在の高市政権の経済政策の原点となっていると本田氏は述べます。
需要不足から供給不足へ ―高市政権の立ち位置
安倍政権が「デフレ脱却」を掲げてから約10年、今、コロナ直前の2019年よりも物価水準は上がっていると本田氏は指摘します。世界的なインフレの煽りを受け、物価上昇率は一時期4%にまで上昇し、現在でも2.9%程度を保っています。そのため、一部のエコノミストは「物価高抑制のために政策金利を上げるべきだ」と主張していますが、それは現状を見誤っていると本田氏は言います。
現在の物価上昇に対し、賃金の上昇がまだ追いついておらず、消費者の需要が落ち込むリスクが残っているからです。だからこそ、今行うべきは金利引き上げによる引き締めではなく、賃金上昇を確実なものにするための「後押し」であると本田氏は主張します。具体的には、設備投資やリカレント教育への支援を通じて、日本の「供給力(生産性)」を高めることです。
需要不足(デフレ)との戦いであった安倍政権とは異なり、高市政権はすでに「物価上昇」という経済活動の熱源がある状態からスタートできているため、その「追い風」を活かし、供給力を強化する成長戦略を取ることが可能であると述べます。
「責任ある積極財政」の真意
そして本田氏は、高市政権の成長戦略の中心にあるものこそ「積極財政」であると言います。高市首相は所信表明演説で、「責任ある積極財政を行う」と発言しましたが、本田氏はここで言う「責任」には二つの意味があると述べます。一つは「豊かさを実現する責任」、もう一つは「財政運営を持続可能なものにする責任」です。「豊かさを実現する責任」とは、国力を高めて国民生活を豊かにすること、「財政運営を持続可能なものにする責任」とは、日本の財政が破綻せずに将来も続くことへの信頼を指します。これまで財務省は、「日本の財政破綻」への過度な懸念により、歳入と支出のバランスをとることばかりを強調してきましたが、本来は「豊かさの実現」こそが財政の目的である、と本田氏は指摘します。
そもそも財政には、①公共財(国防・警察・消防・交通インフラ等、人々が共同で利用する生活基盤となるもの)を国が提供すること、②貧富の格差を是正すること、③経済を安定させること、という3つの重要な役割があります。高市政権では、特に③「経済を安定させる」ことを重視しており、将来への不安を希望に変えて「強く豊かな日本を作る」ことを目標に掲げ、そのために財政支出を活発化させ、景気対策を強化する「積極財政」を打ち出しているのです。
次に本田氏は日本の経済状況と国家の財政状況について、具体的なグラフや数値を取り上げながら説明されました。まず、物価関連指標の推移グラフを見ると、食料、エネルギーを除くCPI(消費者物価指数)は、現在、物価安定目標の2%に向かって収束しているのが分かります。また、エネルギー価格も一時期の上昇に比べると、だいぶ落ち着いています。問題は食料品の価格です。食料原材料の輸入価格の上昇はいまだ変わらず、小売価格の値上げが止まりません。本田氏は食料品の消費税のゼロ税率が一番効果的だと言います。
さらに日銀資金循環勘定のグラフを見ると、実はここ3年の財政状況は過去30年で最も改善しています。2025年の第二四半期に至っては財政が余剰になっています。一年を通してみると、マイナスかもしれませんが、短期間でも資金循環で財政余剰が生まれたことはいい傾向です。しかしそれはインフレだからです。インフレになると消費税収入が増えるため、政府の税収は増加する一方、家計は消費税を多く払わなければならず貧しくなるため、この傾向を素直に喜ぶことはできません。だからこそ、政府が黒字になっている分を国民に返すために、消費税のゼロ税率が必要だと本田氏は訴えます。
財政健全化のパラドックス―なぜ「黒字化目標」は失敗するのか
ここで本田氏はプライマリーバランスについて言及しました。これまで、政府は、財政の健全化を最優先課題とし、財政の持続性を考える上で、長い間プライマリーバランス(PB)という指標を重視してきました。簡単に言うと、これは国の税収等による歳入で歳出が賄われているかどうかを見る指標です。 アベノミクスを始めたころ、財務省は2020年までにPBを黒字化することを目標に掲げていましたが、これを達成することはできませんでした。
その最大の要因は、「PB黒字化そのものを目標にしてしまったこと」にあると本田氏は指摘します。 帳尻合わせの黒字化を目指すと、どうしても支出を減らす「緊縮財政」に走りがちになります。その結果、経済そのものが縮小し、元手となる税収が減ってしまう――。財政を健全化しようとして、かえって悪化させるという悪循環に陥っていたのです。 この悪循環から抜け出すためには、PBに代わる「真に有効な指標」を持つ必要があります。
成長を諦めない国家へ
では、縮小均衡を招くPBに代わり、何を指標にすべきでしょうか。本田氏は「政府債務対GDP比」を挙げます。これは経済規模(GDP)に対して借金がどれだけあるかを見る指標ですが、近年の日本はこの比率が右肩下がりで推移しており、財政は顕著に改善しています。また、この指標ではGDPも変数の一つであるため、GDPを増やすこと、つまり経済を成長させることも、国家の責任として明確化されるのです。有効な指標はまだまだたくさんありますが、大事なことはプライマリーバランスだけにこだわらず、様々な視点から財政状況を判断し、適切な政策を打ち出していくことだと述べました。
講義の最後、財務省は敵なのかという質問に対して、本田氏は「敵ではなく、協力体制を作ることは必ずできる」と話されました。また、昨今話題になっている脱成長などの思想に関しても、「なぜ成長する可能性があるのに、あきらめるのか」と話されます。資本主義社会に生きている限り、国家には経済を成長させる責任があり、そして高市政権はその責任を自覚しています。政治的な課題は山積みですが、これからの高市政権、日本経済への期待を込めて、講義は締めくくられました。

