連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第5回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第 5 回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、京都大学大学院地球環境学堂の山口敬太准教授による「現代社会における共同性を考える」というテーマで講義を行いました。建築・土木・哲学など多彩な領域を横断しながら「景観保全論」や「地域資源管理論」を探究する山口准教授が、社会の分断や画一化が進む現在だからこそ求められる“共同性”の再構築について、独自の視点で講義を行いました。

【開催概要】
日 時: 2024 年 12 月 21 日(土)16:00-18:00
登壇者: 山口 敬太 京都大学大学院地球環境学堂 准教授
プロフィール:専門は景観デザイン論、都市・地域再生論、公共空間のデザイン。地域固有の風土、歴史、文化、景観を手がかりに、地域課題の解決と人々の未来への意志や創造性に基づいた、都市・地域再生の戦略や公共空間のデザインのあり方を探る。
テーマ: 現代社会における共同性を考える

土地の記憶とまちづくり:住民参加型の地域再生に向けて

「土地の記憶」や「風景の文脈」が私たちの日常に深く作用しているにもかかわらず、その重要性に気づきにくい現状があるという指摘から講義は始まります。まちづくりを単なるインフラ整備や経済効率の問題に矮小化するのではなく、歴史・文化・習慣といった⻑期的な蓄積を丁寧に読み解くことこそが、本質的な基盤づくりに不可欠であると話しました。

オギュスタン・ベルクの「人間による風景の発見」や、和辻哲郎の「間柄的存在」という着想が、こうした視野を広げ、地域の景観保全に関する新たな意義を再確認させる理論的支柱となると山口准教授は述べます。特に和辻哲郎が主張する「間柄的存在」―家族や地域共同体、さらには自然環境との関係を通じて初めて自己を確立する―の見方をまちづくりに適用するときにこそ、現代の共同性が取り戻される余地があると山口准教授は説きました。

地域の景観保全や公共空間の活用を考える場合に、住⺠がそこでどのような記憶を重ね、日常的にどんな対話を交わしてきたかを丁寧に掘り起こすことが、本質的な解決策に繋がっていきます。山口准教授が携わってきた空き家再生や地域再生のプロジェクトでは、参加型のワークショップや社会実験を通じて、住⺠が「この建物にはこんな物語がある」「ここは家族との思い出が残る場所だ」などと語り合う場を設計し、新しい活用方法を実践しました。そのプロセスでこそ、新たなコミュニティの芽が生まれ、“しなやかな強靭性”が地域に根付いていくのです。ハードの整備や経済効率のみを優先する手法に偏ると、人間を取り巻く関係性という大切な基盤が見えなくなってしまうことに警鐘を鳴らしました。

講義の後半では、「なぜワークショップや社会実験が大切なのか」という問いについて深掘りをしていきます。人間は往々にして新しいプロジェクトや会議の場に身を置くだけでは動かず、自分自身が「面白い」「やってみたい」と感じたときにこそ、主体的な関わり方が生まれると山口准教授は話します。そうした自発性を高めるための仕掛けとして、遊び心や多様な人を巻き込むことを重視し、予期せぬアイデア同士が出会うとき、従来にはなかった創造力や連携が生まれていきます。何より、外部から投入される計画ではなく、住⺠の生活実感に寄り添いながら徐々に形を整えていくことが、まちづくりを息の⻑いものにする秘訣としても挙げられました。ハードとソフト、制度と自発性を同時並行でデザインする手法が、コミュニティを強靭化し、多層的な課題への対応力を高めるという見解を示しました。

まとめ

山口准教授が指し示したのは、「風土や景観をめぐる文脈を知的かつ創造的に読み解き、そこから住⺠が連帯するシステムを構築する」ことの重要性です。人間が本来的に備える“間柄性”を活かし、現代社会に豊かで多層的な共同性を取り戻すことを目指して、単なるノスタルジーや観光資源として過去を消費するのではなく、地道な対話と協働を重ねることで“分断を超える力”を培い、それがレジリエンスを高めるまちづくりにつながっていく。これは地域コミュニティを考えるすべての人にとっての指針となるはずです。

第 6 回は、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員准教授・辻田 真佐憲氏による「AI 時代の情報戦をどう考えるか」となります。公開まで今しばらくお待ちください。

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