連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第4回開催レポート

今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。

すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。

第4回では、慶應義塾大学の岩尾俊兵准教授が「価値創造の民主化」をテーマに講義を行いました。岩尾准教授は、東京大学史上初の経営学博士号取得者であり、組織学会評議員や日本生産管理学会理事を歴任し、多数の学術賞を受賞。現在は慶應義塾大学商学部准教授として教鞭を執りながら、2024年11月には東証スタンダード市場上場企業の代表取締役社長に就任するなど、学術と実践の両面で活躍する気鋭の経営学者です。また『世界は経営でできている』(講談社現代新書)や『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)など、経営学の知見を一般読者向けにわかりやすく解説する著作を次々と発表していることでも知られています。

【開催概要】

日 時:2024年11月16日(土)16:00-18:00    
登壇者: 岩尾 俊兵 准教授(慶應義塾大学 商学部)
テーマ:カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築


岩尾准教授は、経営者と労働者の対立、世代間格差、企業不正、凶悪犯罪の増加など、今日の社会における様々な分断の根底には「価値有限」という発想があると指摘します。価値ある資源は限られており、奪い合うしかないという価値有限の考えが、対立を生み出しています。

しかし、地球そのものは数百万年間でほとんど変化していないにもかかわらず、経済は何百何億倍にも成長している事実は、価値創造には無限の可能性があることを示していると岩尾准教授は話しました。
価値が無限だと考えれば、他者は限られた資源を奪い合う敵ではなく、共に新しい価値を生み出すパートナーとなる。この観点から、「他者と自分を同時に幸せにすることを究極の目的として、対立を1つずつ解消し、豊かな共同体を作り上げること」を目指していくことが様々な問題の解決に繋がると話しました。

そして、戦後日本の経験を重要な事例として挙げます。戦後、多くの有形資産が失われた中で、人材が唯一の資源として、「人こそが価値の源泉」という信念に支えられた経営が行われ、高度経済成長を実現できた重要な要因となっていました。
しかし、平成以降、アメリカ式経営が持ち込まれたことで「金で金を生む」発想が強まり、人材は投資の対象から管理・監視の対象となっていった。その結果、日本国内への投資は減少し、代わりに日本は世界一の対外純資産を持つに至ったのだと岩尾准教授は話します。


この状況を打破するために、岩尾准教授は「価値創造の民主化」を提唱しました。これは、経営教育を多くの人々に広く薄く提供することで、誰もが価値創造の担い手となることを目指す考え方です。
たった一人が10倍優秀になるよりも、1000人が1%ずつ改善する方が、複利計算的に組織の成果は大きくなる。研究室の経営、病院の経営、家庭の経営など、経営の概念をあらゆる場面に適用することで、新しい形の豊かな共同体を作ることができると岩尾准教授は説きます。この「価値創造の民主化」は、金融資本主義的な『金の論理』と共産主義的な『人の論理』という二元論を超えて、無限の価値創造と無形の生産手段である知識の共有によって、みんなで豊かになる社会を実現する道筋を示していると強調しました。

最後に、経営学において最も困難な課題の一つは、組織の中で共通の目的を発見することだと岩尾准教授は話しました。しかし、人は「幸せになる」という共通目的を持っているはずで、その目的に向かう仲間として、新しい解決が実現できるのではないかと締めくくりました。

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