連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」第3回開催レポート
今年度、現代社会が直面する様々な危機にどう対応していくべきなのか、社会との対話を通じて実践的な知恵を育むことを目指し、一般の方々も参加できる連続講座を開催しています。
すでに、すべての講座のお申込みを終了しており、「レジリエンス」という概念が私たちの日常生活においても重要性を増していることが表れているかもしれません。ご参加できない方や改めて講義を見直したい方に向けて、毎回の講義動画を公開いたします。
第3回「レジリエンス経営科学研究寄附講座」では、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授の白水靖郎氏による「公民連携の功罪」というテーマで講義を行いました。白水氏は、まちづくりや交通インフラ、さらには国土強靱化整備に関わる豊富な実務経験を基に、公的セクターと民間の協働(公民連携)が持つ可能性と課題について深く掘り下げました。
【開催概要】
日 時:2024年10月19日(土)16:00-18:00
登壇者: 白水 靖郎 京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授
中央復建コンサルタンツ株式会社代表取締役社長
テーマ:公民連携の功罪
講義の冒頭、白水氏は公民連携を「単なる効率化やコスト削減を目的とする施策」ではなく、「地域社会が抱える課題を解決し、新たな価値を生み出す包括的な枠組み」として捉える必要性を説きました。このような視点は、特に公共交通やインフラ整備の分野で鍵となります。
公共交通が単なる移動手段として機能するだけでなく、地域全体の活性化や持続可能なまちづくりに寄与するべきだという考え方は、講義全体を貫く主要なテーマとなりました。
白水氏が携わった宇都宮市の次世代型路面電車(LRT)プロジェクトは、公共交通を「公共事業」として捉え直す好例として講義で取り上げられました。このプロジェクトでは、交通インフラを単なる移動手段ではなく、地域全体のまちづくりを目的とした包括的な政策として位置付けています。その背後には、公共政策としての主体性と長期的なビジョンがありました。特に、住民との合意形成や需要予測の見直しといった取り組みは、プロジェクトを成功に導くための重要な戦略として紹介されました。これらの実践は、公共政策の有効性を高めると同時に、地域社会の持続可能な発展を実現するうえで大きな意義を持つと強調されました。
宇都宮市の事例に続き、京都丹後鉄道の再生プロジェクトや女川町の震災復興計画が取り上げられ、公民連携が都市部と地方のそれぞれでどのように展開されるかが示されました。これらの事例では、公的セクターが主体的に基盤を整備しつつ、民間が柔軟なアイデアを活用して運営を担うことで、持続可能な発展を目指すモデルが提案されています。
講義の後半では、白水氏は、公民連携における現行の制度的課題についても言及しました。特に、日本では「公的セクターが負担すべきリスクを民間に過剰に転嫁する構造」が、多くのプロジェクトの停滞や失敗を招いていると指摘しました。この点を克服するためには、公的セクターがリスクを適切に管理し、必要な運営費を事前補助する仕組みを構築することが重要だと話します。最後に、必要な公共サービスが収益性の観点で廃止されてしまわないように、民間に委託したものであっても、公的セクターが責任を果たし、全体を適切に管理することで初めて公民連携が信頼性の高いフレームワークとして機能するとまとめました。
第4回は、慶應義塾大学商学部准教授・岩尾 俊兵氏による「カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築」となります。公開まで今しばらくお待ちください。